国内ニュース:ルテチウム-177を用いたラジオセラノスティクス薬剤開発に係る共同研究契約締結について
~PNET患者への革新的な治療法「ルテチウム内用療法(Lu177)」の追加情報~
2024年7月31日
プレスリリース:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口 正範)、株式会社千代田テクノル(代表取締役社長:井上 任)及び国立大学法人京都大学(総長:湊 長博)は、本日、研究用原子炉JRR-3で製造したルテチウム-177*を用いたラジオセラノスティクス薬剤開発に係る共同研究契約を締結したと発表しました。
革新的な治療法「ルテチウム内用療法(Lu177)」のPNET患者への応用
この共同研究は、膵神経内分泌腫瘍(PNET)などの難治性がん患者にとって革新的な治療法である「ルテチウム内用療法(Lu177)」の開発を推進します。ルテチウム-177は、特定の腫瘍細胞に集中的に作用するペプチド受容体放射線療法(PRRT)において、極めて重要な役割を果たします。この治療法は、がん細胞に特異的に結合するペプチドと放射性物質を組み合わせることで、腫瘍に対して直接的な放射線を照射し、正常な組織を最小限に抑えながらがんを破壊する効果を発揮します。
PNET患者は、従来の治療法では十分に効果を得られないケースが多く、この「ルテチウム内用療法(Lu177)」は特に有効な選択肢として期待されています。近年の臨床試験や実臨床の報告により、Lu177を用いたPRRTは、腫瘍の縮小や進行の遅延、さらには生存期間の延長に貢献することが示されています。
国内でのルテチウム-177供給の確立
これまで、ルテチウム-177の供給は海外に依存しており、輸送に伴う放射能の減衰やコストの増加が課題となっていました。しかし、本共同研究により、日本国内での安定したLu177供給体制の構築が可能となり、患者への迅速かつ持続的な治療提供が期待されます。これにより、放射性同位元素を用いたラジオセラノスティクス治療の利用拡大が見込まれ、特にPNET患者を含むがん患者に対する治療の質が向上するでしょう。
次世代のがん治療の展望
今回のJRR-3を利用したルテチウム-177の製造と国内でのラジオセラノスティクス薬剤の開発は、がん治療における画期的な一歩です。特に、PNETを含む神経内分泌腫瘍に対する新しい治療の選択肢として、患者の生存率向上に大きく貢献することが期待されています。今後も、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、千代田テクノル、京都大学の連携を通じて、安全で効果的な治療法の開発が進められていくでしょう。
JRR-3について:https://jrr3.jaea.go.jp/
*ルテチウムは原子番号71の元素であり、その同位体の一つであるルテチウム177は天然には存在せず、同位体の一つであるルテチウム176やイッテルビウム176に中性子を照射することなどで得られます。半減期は約6.65日でβ線を放出して安定同位体であるハフニウム177に壊変します。放出するベータ線のエネルギーや半減期ががん治療に利用する上で好都合であることから、近年核医学治療用薬剤への使用が拡大しています。
以上