「3,000を超える膵臓がん患者の腫瘍サンプルの包括的なゲノムプロファイリングにより、我々は、ALK転座を有する腫瘍をもつ5人の患者を同定した」とピッツバーグ大学医学部の病理学部助教授Aatur Singhi氏MD、PhDと共同研究者 Nathan Bahary氏、MD、PhDを含む多施設共同研究チームは、Journal of the National Comprehensive Cancer Networkに発表した。
この遺伝的変化とは、希少な未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)と呼ばれる遺伝子を含む染色体転座、または遺伝物質の再編成のことである。 ALKのタンパク質産物はがん遺伝子(oncogene)、または正常細胞にがんのような性質を与えることができるタンパク質と考えられている。
「エキサイティングなことに、ALK阻害剤、または異常に活性なALKの活動を選択的に遮断する薬剤(下記のリスト参照)は、他のがん種においても有効性を示しており、ALK遺伝子変異のある膵臓がん患者にも有益である可能性があります。我々の研究に先立ち、ALK転座は膵臓がんでは報告されていませんでした」と 膵臓がん患者の腫瘍に治療上標的とすることができる異常なALK遺伝子変異があることを突きとめたSinghi氏は述べた。「膵臓がん患者のなかの少数のグループ(選択肢が非常に少ない集団)でさえも効果的かつ臨床的に利用可能な治療法がみつかるという見通しは刺激的だ」と説明した。「次のステップは、我々の分子データを振り返って、まだ見つかっていない潜在的に治療可能なサブセットを同定することである」と彼は付け加えた。Singhi氏は、2016年にパンキャン・トランスレーショナルリサーチ助成金を獲得している。
パンキャン本部が進める最先端「Know YourTumor®プレシジョンメディシン」の研究プロジェクトでは、希望する膵がん患者に分子プロファイリング検査を提供している。分子プロファイリングは、患者の正常細胞が癌化する特定の変化に関する情報を提供することができる。膵臓がんの独特な遺伝子変異の特徴は、その患者に最適な治療を選択するために必要な情報を提供する。5つの膵臓がん患者の腫瘍において異常な遺伝的変化が検出された。この研究に参加した患者の1人は、Cedars-SinaiにあるAndrew Hendifar氏、MD、MPHによってパンキャン本部「Know Your Tumor」分子プロファイリング検査への参加を勧められ検査を受けた。その結果発見されたのが、今回の稀なALK融合遺伝子変異だった。
■現在FDAによつて承認されているALK阻害剤:
・クリゾチニブ Crizotinib (Xalkori) 2013
・セリチニブ Ceritinib (Zykadia) 2014
・アレクチニブ Alectinib (Alecensa) 2015
・ブリガチニブ Brigatinib (Alunbrig) 2017 (日本では未承認)
■ALK遺伝子変異検査キット
Vysis ALK Break-Apart fluorescence in situ hybridization probe kit test
編集注:間野博行氏(国立がん研究センター研究所 所長)により肺がんのドライバー遺伝子、EML4 -ALK融合遺伝子が発見され、2007年にNature誌に発表された。2011年にはALK阻害剤クリゾチニブ(一般名Crizotinib商品名Xalkori)が発売され、ALK遺伝子変異陽性の肺がん患者に投与され非常に高い奏効率が確認されている。