遺族外来 —大切な人を失っても
著者は、埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科の大西秀樹 教授。2007年、日本で最初の がん患者遺族のための「遺族外来」を開設した医師である。 旅立ちという形で、病気に終わりが訪れ、遺族は同じ体験を共有する。本の冒頭で、著者は父親との死別の経験が細やかに書いている。どんなに時間が経っても、1つ1つの事柄が鮮明に記憶されているのもきっと同じなのかもしれない。著者が大切な家族をなくした経験は大きなエネルギーとなり、遺族外来を始める契機になった。 この本には遺族外来に来る方々のエピソードがつづられている。若くしてお嬢さんをがんでなくされた方、病室でいつもやさしかったご主人をノートに書き留める方、遺族になった母親を支えるお子さんなどが、静かな視点で書かれている。「患者さんは、新しい世界に適応しながら生きていくことができる」—著者のそうした思いが、タイトルの「—大切な人を失っても」に込められている。読んでいるうちに、いつの間にか背中を押されていることを感じる1冊である。
河出書房新社 1,600円+税 大西秀樹 著 2017年6月19日刊行 |