海外ニュース: RAS経路を標的とした新たな併用療法
転移性膵臓がん患者の腫瘍を死滅させるために、標準治療に2つの新薬を併用することで相乗効果を生み出すことができるだろうか?
2024年9月10日
KRASタンパク質 (Thomas Splettstoesser; Wikimedia Commons)
RAS遺伝子の突然変異は、ほとんどの癌の種類で発生します。 事実、膵臓がん患者の90%以上が、3種あるヒトのRAS遺伝子のうちの1つであるKRAS遺伝子に突然変異があります。 RAS遺伝子は、細胞増殖を含む多くの細胞プロセスを促進する細胞シグナル伝達経路において重要な役割を果たしています。RAS遺伝子が突然変異すると、細胞は制御不能に増殖し、死滅するシグナルを回避します。 RAS経路の複雑性により、阻害剤の標的とすることが非常に困難です。この経路の重要な構成要素を単独で阻害しても、一般的に癌の拡散を止めるには不十分です。なぜなら、腫瘍細胞は阻害剤に耐性を持つ新たな変異を細胞内に生じさせてRAS経路を再活性化するか、あるいは生き残るために並列/代償の経路を活性化するからです。
研究者たちは、新しい薬剤の組み合わせがこのハードルを克服し、化学療法と相乗効果を発揮して、膵臓がん治療により完全で持続的な反応をもたらすことを期待しています。
■2つの薬剤の作用
アブトメチニブ(Avutometinib:VS-6766) は、RAS経路の2つの主要分子であるRAFおよびMEKタンパク質を標的とし、腫瘍の成長と増殖を阻害します。 以前の臨床試験では、良好な耐容性が示されており、患者がより長く治療を継続できる可能性もあります。 この薬剤は、非小細胞肺がん、婦人科系がん、大腸がん、一部のメラノーマ、乳がんなど、KRASまたは関連変異のある他の癌でも試験されており、有望な初期結果が得られています。
RAFおよびMEKタンパク質が阻害されると、腫瘍細胞は焦点接着キナーゼ(FAK)タンパク質によって駆動される別の並列経路に切り替わります。デファクチニブ(Defactinib:VS-6063)は選択的FAK阻害剤であり、並列シグナル伝達経路を不活性化し、腫瘍細胞の死滅においてアブトメチニブ(avutometinib)との相乗効果を示しています。米国食品医薬品局(FDA)は2024年7月、この併用療法に希少疾病用医薬品指定(Orphan Drug Designation)を与え、最初の患者を対象とした試験の初期結果は、2024年5月に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)の会議で報告されました。
■臨床試験の仕組み
この第I相/第II相試験では、進行性または転移性膵臓がん患者を対象に、標準治療である化学療法(ゲムシタビンおよびナブパクリタキセル)と併用したアブトメチニブおよびデファクチニブの安全性と有効性を評価しています。 以前に治療を受けたことのある患者および膵神経内分泌腫瘍の患者は、この試験に参加する対象からは外されました。本試験では、治療効果の指標として全奏効率を分析する第2部の試験で推奨される用量を決定するために、さまざまな用量とスケジュールを組み合わせた評価を行っています。
ご自身に適した臨床試験については、担当の医師にご相談ください。米国のウェブサイト「ClinicalTrials.gov」(英語サイト)では、本試験の詳細をはじめ、その他多数の臨床試験の詳細をご覧いただけます。現在実施中の膵臓がんの臨床試験の一覧については、「EmergingMed Trial Finder」もご覧ください。
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Source: Let's Win Research by Lustgarten Foundation