2013年11月20日 奈良県立医科大学消化器・総合外科 庄 雅之

PancanAward2013Shomasanori奈良県立医科大学消化器・総合外科 庄 雅之

 

この度,PanCAN Clinical Research Awardを受賞させて頂き,PanCAN JAPANならびに関係各位の皆様に,改めて心から御礼申し上げます.今回受賞の対象となりました研究課題「5FU大量肝動注およびゲムシタビン併用による膵癌術後補助化学療法の有用性」について概説させて頂きます.

 膵癌根治のためには,切除が唯一の治療法ですが,根治切除後でも高率に再発を来します.膵癌術後再発形式は,肝転移,腹膜転移,肺転移,局所再発などがありますが,なかでも肝転移は高率に発症し,他の再発形式と比較して,再発までの期間が短く,再発後の生存期間が短いことが報告されています.したがって,術後肝転移制御は予後向上のためには極めて重要な課題です.しかし,現在臨床で広く用いられているゲムシタビンなどには,直接的な肝転移制御効果は乏しいことも報告されています.奈良県立医大では,2006年より外科と放射線科との緊密な連携の下に,術後一時的に動脈カテーテルを留置し,5FU(1000mg/m2)を直接肝動脈に注入する肝動注療法を行っています.通常のゲムシタビン(1000mg/m2)点滴静注投与と同時に併用する方法です.肝動注の利点は,点滴や内服では到底不可能な非常に高い薬剤濃度を肝臓内において達成することで,潜在的な微小肝転移巣の制御が期待できることです.同時に5FUの多くが肝臓で代謝されるために,全身の副作用が少なく,ゲムシタビンの全身化学療法との併用も可能です.当院では,これまでに110例以上の肝動注療法を行ってきました.その結果,術後肝転移再発は10%台にまで低下しています.生存率も大幅に向上しており,生存期間中央値は現在44ヵ月となっています.肝動注の欠点は,肝動脈の狭小化やそれに伴う肝膿瘍などですが,我々は血管造影,CT検査により肝動脈の状態,カテーテル位置,薬剤分布等を定期的に確認しつつ,慎重に治療を進めており,これまで肝動注治療期間中に肝膿瘍を発症したことは1例のみでした.今後は,肝動注療法がS-1など他の治療法と比較しても優れた治療法であるか,さらに治療成績を向上させるためには何をどのように改善すべきか,さらに検討を進めていきます.

 膵癌は,未だ最も治療困難な疾患であり,一人の医師,単一診療科での治療には限界があります.特に,最近の癌治療の進歩は目覚ましく,同時により一層複雑化してきています.より良い癌治療の実践には,多くの医師や医療スタッフ,複数の診療科の協力が必須です.私達は全国多施設共同臨床試験にも積極的に参加し,エヴィデンスの創出,より良い標準治療の確立を目指しています.また同時に,院内診療各科,スタッフ,あるいは地域の関連施設との緊密な連携をとりながら,奈良医大独自の治療法開発にも全身全霊で取り組んでいます.膵癌治療の進歩には,いずれも重要ではないかと考えます.治療成績の向上,根治を目指しつつも,患者さんの日々の生活が,可能な限り平穏で快適なものとできるように,究極的にはお一人お一人に満足して頂ける治療を目指して,今回のこの栄誉ある受賞を励みに,これからもできうる限りの努力を最後まで続けていく所存です.



奈良県立医科大学消化器・総合外科 庄 雅之
2013年度Clinical Research Award(臨床研究者)受賞

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