NETがん治療の選択肢
NETがんの治療は、腫瘍の大きさおよび位置、がんが広がっているかどうか、および患者の健康状態に影響されます。NETは複雑ながんのグループであり、専門家チームが最良の治療計画を決定するためには患者と協力することが理想的です。ここに記載されている治療法のすべてがすべての患者に適しているわけではなく、治療計画は常に個人に合わせて調整する必要があります。
多分野の医療者からなる集学的治療チームは、治療計画を策定する際に、常にいくつかの目標を念頭に置いています。
治療のゴール
腫瘍サイズを縮小させる、または増殖をとめて安定化させ、症状を緩和するために使用される治療法がいくつかあります。
注:ここに紹介されている国際標準治療は、欧州神経内分泌腫瘍学会(ENETS)のガイドラインに基づいて書かれています。しかし、個々の治療法が承認・保険償還されている状況は、国によって異なりますのでご注意ください。また、一部の診断法、治療法については、医療施設によっても状況が異なります。詳しい情報は、主治医、または、がん診療連携拠点病院の相談支援センター、国立がん研究センター情報サービスのホームページ、地域の患者団体などにお問い合わせください。
NET治療のゴールは、手術によって腫瘍をからだから取り除くことです。しかし、原発腫瘍の場所、または腫瘍の広がりによっては、手術による切除ができない場合もあります。
- 症状を緩和する
- 腫瘍の増殖を制御する
- 患者の良好な生活の質を維持する
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編集注:
NET治療のためのガイドラインが米国、欧州、日本で公開されています。
・米国の場合、NCCNガイドライン https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/neuroendocrine.pdf
・欧州の場合、ENETSガイドライン https://www.enets.org/1521268587404.d.f.187.pdf
・日本の場合、膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドラインhttp://jnets.umin.jp/pdf/guideline001s.pdf
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外科療法
手術はNETがんを治すことができる唯一の治療法です。しかし、診断の遅れにより、腫瘍が広がり、転移する機会を与えてしまうと、ほとんどのNETがんにおいて、手術しても治癒の可能性が少なくなります。腫瘍が1つの場所に限られている、または隣接している臓器に広がりがみられないような場合、通常は手術が治療の第1選択肢になります。腫瘍を完全に除去することが可能であり、腫瘍が拡がっていない場合、それ以上の治療は必要ない可能性もでてきます。しかし、通常、手術が適応とならないような、隣接している臓器までがん広がっている、あるいは遠隔転移がみられる場合でも、ホルモンの産生が多すぎる腫瘍部分を除去するために手術を受けることは可能です。これはしばしば腫瘍の減量手術(Tumor debulking)と呼ばれます。(注:腫瘍の減量手術(Tumor Debulking Surgery)とは、可能な限り多くの腫瘍(がん細胞)を外科的に除去すること。腫瘍の減量手術は、それから化学療法または放射線療法をすることで、すべての腫瘍細胞を殺す機会を増加させる可能性があります。また、症状を和らげたり、患者の生存率を向上するのに役立つかもしれません) 腫瘍が十二指腸のような臓器を閉塞している場合、閉塞を和らげるためにバイパス手術が役立ちます。腫瘍が肝臓に転移して広がっている場合は、腫瘍のある肝臓の部分を外科的に切除することができます。非常にまれに、肝臓移植が考慮されることもあります。手術は、他の治療法と組み合わせることができるため、患者の治療計画を通じて使用することができる治療の選択肢です。
ソマトスタチンアナログ(Somatostatin Analog)
ソマトスタチンアナログ製剤は、カルチノイド腫瘍によって引き起こされる不快な症状を制御するために利用されます。
ソマトスタチンアナログで製剤あるランレオチド(商品名 ソマチュリン)とオクトレオチド(商品名 サンドスタチン)は、脳および消化管において産生される天然に存在するホルモンの類似体であり、いくつかの他のホルモンおよび内臓器官から放出される化学物質をブロックするソマトスタチンの合成製剤です。
オクトレオチドは、毎日の自己注射(筋注製剤)または徐放性製剤を使って月一回の注射で投与されます。ランレオチドは、隔週および月一回の徐放性製剤を使って投与することができます。多くの場合、毎月の注射は主に医療従事者によって管理されますが、自己管理のもとで毎日注射することが可能です。
これらのサンドスタチンアナログ製剤は、紅潮、喘鳴、下痢などの症状を引き起こすホルモンの過剰生産を止めることができます。医師による臨床的な監督下では、これらの治療は、臨床的症候群のみられないNET患者においても使用されることがあります。長時間作用型オクトレオチドはまた腫瘍増殖を制御することもできます。
塞栓術(HAE)
腫瘍が肝臓に広がっている場合、肝動脈塞栓術(Hepatic Arterial Embolization: HAE)を受ける可能性があります。この処置では、カテーテルを鼠蹊部から入れ、肝臓の腫瘍に血液を供給する肝動脈まで慎重に誘導します。
エンボスフェア(またはミクロスフェア)と呼ばれる小さな粒子が、カテーテルを通して動脈内に注入されます。これらの粒子は、血管内で腫脹し、腫瘍への血液供給を遮断し、腫瘍を縮小させたり死滅させたりすることができます。この治療は、肝臓転移および肝臓外の転移を伴う一部の患者において全身治療と組み合わせることもできます。これは、IVRの専門医によって行われる手技です。患者は治療のために麻酔で鎮静されます。(注:IVR(Interventional Radiology)とはカテーテルや特殊な針により画像診断の技術を用いて行う治療です) 時には、この塞栓術は、化学療法と組み合わされた肝動脈化学塞栓術 (HACE)、またはトランスカテーテルとの組み合わせでトランスカテーテル動脈化学塞栓術(TACE)として、または放射線療法との組み合わ(RMTまたはSIRT)で使用されます。
放射性核種療法(PRRT)
ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)またはラジオアイソトープ療法(RI Therapy)とも呼ばれる。この治療法は、オクトレオスキャンで適用されるのと同様に腫瘍細胞に発現するソマトスタチン受容体に特定の物質(ソマトスタチン類似物質)が結びつく性質を利用して、核種と呼ばれるラジオアイソトープ(放射性物質)を利用して腫瘍だけを破壊する治療です。放射線の線量は、さらなる腫瘍増殖を防止するか、または腫瘍を死滅させるのに十分なほど高いものが使われます。放射性物質は、NETに蓄積することが知られているソマトスタチン類似物質と化学的に結合されています。この組み合わせは、患者に注入されるとソマトスタチン類似物質が腫瘍に取り込まれ、付着している放射線物質が腫瘍細胞を殺します。さまざまな放射性物質が利用可能です。
放射性物質の例
- 111-インジウム 90
- イットリウムドタトック
- 177-ルテチウム 90-イットリウム-tyr 3 -ドタ-オクトレオテート
インターフェロン
インターフェロンは、身体の免疫系によって産生される天然に存在する物質です。 生物学的療法または免疫療法と呼ばれることもあり、NET患者の一部を治療するために使用されます。一部の患者では、単独で投与されますが、ソマトスタチン類似物質との併用療法として頻繁に投与されます。欧州の患者は、病気の最適な管理と治療にアクセスするために、自国内の異なる病院だけでなく、ときには他の国のNET専門治療センター(Center of Excellence)にも紹介されることがあります。
ラジオ波焼灼療法(RadioFrequency Ablation: RFA)
RFAは、比較的少ない数の転移がみられる場合に使用されます。電極の針を腫瘍の中心に挿入し、電流を加えてラジオ波による熱を発生させ、腫瘍細胞を死滅させます。対処できるがんの大きさは3CMまでと言われています。
凍結凝固(Cryoablation)
凍結凝固はRFAに類似しています。凍結用ニードルが腫瘍に挿入され、腫瘍細胞を凍結させることによって死滅させます。凍結手術(Cryosurgery)、凍結療法(Cryotherapy)ともいわれています。低侵襲治療であり、再発、残存した場合でも繰り返し治療できます。
経皮的エタノール注入療法(Percutaneous Ethanol Injection Therapy:PEIT)
経皮的エタノール(アルコール)注入療法は、肝臓のがん細胞に純粋なアルコールを注入する治療法です。これは、純粋なアルコールを注入するとたんぱく質が凝固し、腫瘍細胞を脱水する機序を使っています。がんの状態によっては、エタノールがひろがらないことがあるため、RFAが使われる場合があります。
外部照射放射線療法
外部照射による放射線療法は、リニアックという装置を用いて電子線を体外から照射します。近年、強度変調放射線治療(IMRT)や体幹部定位放射線治療(SBRT)が利用できるようになりました。強度変調放射線治療(IMRT)は、様々な方向から放射線を照射する時に、線量に強弱をつける治療法です。がんの形が複雑な場合や、がんの近くに正常組織が隣接している場合に、正常組織に当たる放射線の量を最小限に抑えながら、がんに多くの放射線を当てることが可能です。体幹部定位放射線治療(SBRT)は、従来の放射線治療と違い3次元的に多方向から放射線を当てる治療法です。がん腫瘍に対してピンポイントに放射線を当てることが可能なため、大きな副作用を心配することなく、通常の放射線治療よりも多くの線量を当てることができ、高い治療効果が期待できると言われています。
新しい治療法
進行した膵臓NETの治療のために、2つの医薬品が米国および欧州で認可されました。ひとつは、一般名 エベロリムス(商品名 アフィニトール)は、エベロリムスを有効成分とする製剤です。エベロリムスは、腫瘍への血液供給を減少させ、癌細胞の増殖および拡散を遅らせる。アフィニトールは、膵臓に由来する進行した神経内分泌腫瘍の治療に使用されます。スニチニブ(商品名 スーテント)は、いくつかのがんの増殖を遅くしたり止めたりすることができます。これは、増殖および拡大を引き起こす2つの基本的プロセスである、増殖(細胞分裂)および血管新生(新生血管の成長)をブロックすることによって機能します。スニチニブは、手術不能な局所進行性または転移性の膵臓神経内分泌腫瘍を治療するために使用されます。
臨床研究
研究は、情報の収集と調査を含む段階的なプロセスです。 NETがんの研究は、病態の理解と治療方法を改善するために不可欠です。
研究目標は次のとおりです。
- NET発現の原因を理解する
- NETの病態について理解する
- より効果的な画像診断と早期発見につながる血液検査の策定
- 新たな治療オプションを発見し、比較することで現在の標準療法が最良の治療を提供しているか確認する
NETはあまり一般的ではありませんが、毎日患者を治療する専門家チームが世界には存在します。これらのスペシャリストのなかには、自分のユニット内で研究を行うための資源が割り当てられている研究者もおり、このNETがんの理解を深め、治療法の選択肢が拡大し続けることが重要と考えて研究を続けています。 彼らの研究センターでは、多くのNET研究がNET専門医によって行われています。患者は、慎重な監督下に進められる新しい治療法を試みるために臨床試験に参加したいと考えていることから、専門家とよく話し合って、適格基準に合格かどうかを知る必要があります。 すべての試験は、患者の安全性のための厳密な包含基準および除外基準に基づいて実施されています。患者は自分が不適格であると知ることで、フラストレーションにつながるかもしれませんが、専門家は適格基準の条件とか、患者が適格かどうかの決定に影響を与えることはできません。 また、逆に患者の合意なしに臨床試験に参加させることもできません。医師、看護師または他の研究者は、臨床試験の目的、条件、副作用、さらには期待できるベネフィットなどについて患者に説明し、そしてその患者が同意しない限り、患者を臨床試験に入れることはできません。
患者が参加したいかどうかを決定するのを助けるために、研究者は臨床試験について期待される治療効果と副作用、臨床試験センターで受ける治療と検査の頻度、かかる費用と負担など、患者が知っておかなければならないことを丁寧に説明する必要があります。
- 見つけようとしている治療効果
- 患者はどのように扱われるか
- 患者は何をしなければならないか
臨床試験への参加について、患者から同意が与えられた後でも、患者はいつでも理由を言わずに試験を終えることができる権利があります。患者が治験に参加して新しい治療を受けていた場合、その後治験が中止された場合は、新しい治療を続けることができない可能性があります。このような状況では、患者はがんの種類に対して適切な標準治療を受けることになります。
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欧米のNET診療ガイドラインをもとにして国際標準NET医療を紹介するために書かれています。
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Source: International Neuroendocrine Cancer Alliance, New York, USA