国内ニュース:膵がんの予後不良型に血液がんの薬が効くかもしれない
2018年12月17日
研究発表の記事から。東京医科歯科大学(文京区)の研究グループが、多くの膵がん患者さんのがん組織の遺伝子変異を詳細に研究し、3つのタイプに分かれること、さらに最も予後が悪いタイプの膵がんに血液がんの治療薬が有望であるとする研究結果をまとめ、がん研究の国際科学誌International Journal of Cancerの2018年12月17日のオンライン版に発表しました。
本研究は重要な2つの点を示唆しています。1つは「膵がんでもほかのがんのように遺伝子変異をもとにした個別化治療を研究する価値があること」、もう1つは「そこから新しい治療薬が見出される可能性があること」です。論文の解説も掲載していますので、詳細は以下をご参照ください。
■『パンキャンの記事の解説』
がんは遺伝子の変異が蓄積して起こります。膵がんも例外ではなく、膵臓の細胞の複数の遺伝子変異が重なって起こります。一口に膵がんといっても、そのすべてが同じ遺伝子変異を持っているわけではありません。海外で行われた先行研究から、遺伝子変異のパターンでタイプ分けすると3種類に分かれると報告されていました。こうした遺伝子変異の種類や変異の組み合わせをもとにがんをタイプ分けする研究は肺がん、乳がんを中心に様々ながんで進んでいます。そのようながんでは、その遺伝子変異の種類にマッチした治療薬を選択することが一般的です。残念ながら膵がんではこの研究が遅れています。
東京医科歯科大学大学院の田中真二先生(分子腫瘍医学分野)を中心とする研究グループは、データベースに保存されていた膵がん患者さんの遺伝子変異の情報を詳細に調べ、やはり3種類にタイプ分けすることを確認しました。さらに全体の30%を占める予後不良タイプでは、共通してKDM6Aという遺伝子がなくなっていたり、あってもその働きが低下していることを発見しました。詳しく調べたところ、KDM6A遺伝子は、がん化を抑える遺伝子群(がん抑制遺伝子)の働きを強化していることが明らかになりました。がん抑制遺伝子はがん化のブレーキをかけている遺伝子群ですが、KDM6A遺伝子の働きが弱くなると、このブレーキの働きも弱くなり、がん化が進むというわけです。
同グループはこの弱くなったKDM6A遺伝子の働きが“HDAC阻害薬”の働きで補うことができることも発見しました。HDAC阻害薬は日本国内でも多発性骨髄腫の治療を目的に販売されています。この薬が膵がんに有望という話は、治療薬が少ない膵がん患者さんにとって朗報です。しかし、まだ実際に膵がんの患者さんで効果が確認できていません。今後、臨床試験を行って、実際に効果があるか、重篤な副作用がないかを確認していくプロセスが必要になります。
本研究は重要な2つの点を示唆しています。1つは「膵がんでもほかのがんのように遺伝子変異をもとにした個別化治療を研究する価値があること」、もう1つは「そこから新しい治療薬が見出される可能性があること」です。
希望を常にもち、さまざまな方法から考えていく時代に入ってきています。
■参考記事
●International Journal of Cancer Online版 記事 2018年12月17日
「Loss of KDM6A characterizes a poor prognostic subtype of human pancreatic cancer and potentiates HDAC inhibitor lethality.」
PDF版 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1002/ijc.32072
●AMED プレスリリース
「予後不良膵癌サブタイプにおけるヒストン修飾遺伝子の不活化の意義を解明―膵癌のサブタイプ特異的な新規治療法の開発に期待―」
https://www.amed.go.jp/news/release_20181218-03.html
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膵癌撲滅基金はこちらから → https://bit.ly/2WxLNge