Meridian Viewray small  写真1 メリディアンの全景

膵臓がん治療の新潮流

第1回 MR画像誘導放射線治療装置「メリディアン」 ~MRI利用で高線量を照射する~

  MRIと照射装置を一体化させた、新しい放射線治療装置メリディアンの利用が始まっています。これまでの放射線照射の弱点だった、臓器の動きにも対応できる、新しい治療装置です。がんに強い放射線を当てることができる一方、正常組織への照射をきわめて低く抑えることができます。2年前から運用し、膵臓がんを治療している国立がん研究センター中央病院放射線治療科の伊丹純先生に伺ったお話をもとに、紹介いたします。

著者:小崎丈太郎、パンキャンジャパン理事

監修:国立がん研究センター中央病院 放射線治療科長・伊丹純先生

 Dr Itami NCC

写真2 国立がん研究センター中央病院放射線治療科長の伊丹純先生 図1 膵臓がんを治療した成績

 

●膵臓がんの放射線治療の現状

   膵臓がんは「切除可能」の段階では手術と術後薬物療法を行うことが標準です。切除できるかどうかの判断が難しい「切除可能限界」では、薬物と放射線を併用した化学放射線療法を術前補助療法として実施することがあります。

   さらに進行した「局所進行切除不能」の段階では、手術は行わず、薬物療法と化学放射線療法が治療の中心になります。肺や大腸などの膵臓以外の臓器に転移がある「遠隔転移」では化学療法が中心になります。

●放射線治療の目的と課題

 放射線治療の究極の目的はがんにだけ放射線を当てることです。がんに限定して放射線を当てることができれば、強い放射線を当てたほうが効果が高まります。

 しかし、実際は呼吸や体の移動によって、がんの部位が動いてしまうことがあります。そうすると正常組織に放射線が当たることになるため、高い放射線を治療に使うことができません。こうした呼吸や体の動きを把握するために、治療中に頻繁にレントゲンを撮影したり、目印となる金マーカーを体に埋め込む方法が普及しています。これでも正常臓器を立体的に把握することができず、精度向上に限界があります。
 
●MR画像誘導の特徴

 MR画像誘導放射線治療装置メリディアン(MRIdian)は、米国の医療機器メーカーのビューレイ社が開発した、MRI検査技術と放射線照射を同時に実施できる、新しい放射線治療装置です。

 治療中でも標的となる部位とそうではない正常な臓器の位置をMRI画像により確認することができます。また、ずれが生じた場合は、一時的に中断し、照射位置を修正することもできます。

 その結果、正常な組織への影響を抑えながら、がんに対して高い線量を使うことができるようになりました。従来の方法では、正常臓器に放射線が当たってしまうことを考慮して、がんの縁から内側に1~2cmのマージンを設定しましたが、がんと正常組織を正確に捉え続けることができるために、このマージンを2mm程度、正常組織までぎりぎりのところにまで照射範囲を設定することができるようになりました。

 従来法よりも精密に高い線量をがんにたえることができるようになったおかげで、従来よりも短い照射時間(位置の調整時間は別です)と少ない回数で治療を終えることができるようになりました。

●膵臓がん治療への期待

 メリディアンは原理的に多くのがんの治療に利用することが可能と考えられています。特に放射線治療が効きやすいとされる、頭頸部がんや動きの多い肺がんや食道がん、胃がんの治療に使うことが期待されています。

 膵臓がんもメリディアンの効果が期待されるがんの1つです。
 膵臓の周囲にはたくさんの臓器があります。わかりやすく言うと大変込み入った環境におかれています。特に、膵臓のそばには十二指腸があり、高い線量の放射線を利用することができませんでした。 

   メリディアンは、照射野に腸管が入ってきた場合に、即座に照射を中止することできるために、正常な腸管を障害する事態が回避できます。
 メリディアンの治療に適したがんは限局型のがんです。膵臓がんでは膵頭部、膵尾部など膵臓内ならばがんの位置に限らず治療が可能です。ただし腹膜などへの転移がある場合は、膵臓を治療しても病気全体への治療効果が得られ難い可能性があります。適応や治療期間、照射の回数については実際の治療医と相談して決定する必要があります。

●日本国内での普及

 メリディアンは2016年に医療機器として承認されました(公的な保険はまだ利きません)。

 国立がん研究センター中央病院では2016年にメリディアンを導入し、2017年から本格的な治療を開始しています(https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/radiological_technology/radiological_oncology/040/index.html)。膵臓がんのほか、肺がん、頭頸部がん、前立腺がん、肝臓がんの患者さんの治療に使われています。従来の治療成績を上回る結果で得られつつありますが、日本国内の治療成績がまとまるにはあと数年が必要です。

 日本国内では、国立がん研究センターのほかに、民間病院の社会福祉法人仁生会・江戸川病院(東京都江戸川区)が導入しています(http://suizougan-plaza.com/)。

●メリディアンの治療を受けるには

 メリディアンが稼働しているのは世界で10台未満です。
 日本では前述の通り、国立がん研究センターと江戸川病院で治療を行っています。

 国立がん研究センターでは、受診に際して主治医からの紹介状は「あった方が望ましい」としていますが、紹介状がなくても受診が可能ということです。ただ、現在既に治療を受けている場合は主治医の先生に相談することによってより確かな情報を得ることができますから、まず主治医の先生に相談してみましょう。治療法は保険償還の対象にはなっていませんので、治療に際しては210万円ほどが患者さんの負担になります。

 江戸川病院は、1照射について75,600円(税込み)と料金を設定しています。照射回数はがんの状況や種類によって異なりますが、10回から37回の照射を想定しています。

Meridian Outcome

図1 膵臓がんを治療した成績


  早期膵臓がん(ステージI/II)を治療した成績。上の線がメリディアンを使用した場合、下の線は使用しなかった場合。メリディアンの使用で生存率が大幅に改善している(Rudra S.米国放射線腫瘍学会2017で発表)

 

 

 

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