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ASCOニュース:すい臓がん治療は、BRCA変異と膵臓がんの関係を解明する

2019年 6月2日

今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)において、生殖細胞系のBRCA遺伝子変異を持つ転移性膵臓がん患者が、オラパリブと呼ばれる薬剤で治療を受けると病気の進行や死亡のリスクが有意に減少したという発表がありました。ほとんどの人がBRCA遺伝子について耳にしたとき、それらの遺伝子変異 - BRCA1とBRCA2 ―が乳がんと卵巣がんの高いリスクと関連していることをすぐに思い浮かべます。卵管がん、前立腺がんおよび膵臓がんを含む、乳がんおよび卵巣がん以外のいくつかのがんがBRCA1およびBRCA2の有害な突然変異と関連していることは研究者の間では長く知られていました。今年シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で6月1日に発表された新しい研究は、BRCA1またはBRCA2に変異を有する「転移性膵臓がん患者」のための治療法についてでした。

NCI指定総合がんセンターである、ニューヨーク・ランゴーン・メディカルセンターのPerlmutter Cancer Centerの膵臓がんセンターの所長であるディアン・シメオネ博士は「これは、この分野にとって重要なバイオマーカー主導の研究でした」と述べました。「膵臓がんの家族歴がない人でも、生殖細胞系BRCA2遺伝子変異キャリアをもっている場合、その人が膵臓がんに罹患するリスクは約6〜7%です。そして、そのことは実際には議論されないものです」と彼女は言った。「あなたに膵臓がんとBRCA遺伝子変異を持つ家族がいるならば、その人たちは私たちのハイボリュームセンターで診察を受ける必要があります。」 ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine:NEJM)に発表されたこの研究は、生殖細胞系のBRCA遺伝子変異と転移性膵臓がんを持つ患者が、オラパリブと呼ばれる薬で治療を受けていると病気の進行や死亡のリスクが有意に減少することを発見しました。


昨年、米国食品医薬品局(FDA)は、プラチナベースの第一選択化学療法に完全または部分的に反応したBRCA突然変異進行上皮性卵巣がん、卵管がんまたは原発性腹膜がんの成人患者の維持療法としてオラパリブを承認しました。この新しい研究では、以前にプラチナベースの化学療法で治療されていて、膵臓がんが進行していなかった154人の患者が参加しました。 2015年から今年の間に、これらの患者は、一種の維持療法としてオラパリブを投与されるかプラセボを投与されるかのいずれかに無作為に割り当てられました。研究の2年後、研究者らは、オラパリブ群の患者の22.1%に対してプラセボ群の患者の9.6%が疾患の進行がないことを確認しました。

「患者はオラパリブ維持療法の直前にプラチナベースの化学療法を受けました。そのため、プラチナベースの第一選択化学療法と維持療法のオラパリブ戦略の組み合わせにより、患者の無増悪生存期間(原病の増悪も,いかなる死亡も起きない期間)は1年を超えました」と研究者らは研究で記載しています。膵臓がんは通常、ステージが進んだ段階で診断され、それにより患者の予後不良をもたらすので、これは重要です。この治療で発生した有害事象には、疲労感、吐き気、貧血、腹痛、下痢、便秘、嘔吐、背中の痛みなどがありますが、有害事象による死亡はありませんでした。オラパリブによる治療群の患者のわずか6%、プラセボ群の2%が有害事象のために試験を中止しています。


がん自体は、私たちの細胞が成長し、分裂し、そして機能する方法を制御する遺伝子へのある種の変化によって引き起こされるという点では遺伝子の病気です。一方、BRCAの突然変異は、損傷したDNAを修復するのに役立つ体内のタンパク質を傷つけるため、体をがんの危険にさらします。「BRCA変異を有する者がいる場合、それらの人は正常なBRCAを有する者とは異なり、損傷を受けたDNAを修復することができません」とボルチモア市のジョンズホプキンス大学の腫瘍学と疫学のブルームバーグ名誉教授であるオーティス・ブロウリー博士は言います。「プラチナベースの治療法はDNAにダメージを与え、がん細胞を殺すのに役立ちます。しかし、多くのがん細胞は我々の治療法によって引き起こされた損傷を修復するための代替方法を開発しています」と彼は言いました。 「しかし、細胞がDNAを修復するためのもう1つの方法、つまりDNAを修復するための2つのメカニズムが損なわれている場合、そこにDNAを損傷する化学療法薬を投与すると、実際にがん細胞を殺すことができます。そして研究者らはこの臨床試験でその原理を証明したのです。」

 「より多くの患者が遺伝子検査を利用するにつれて、『この種類の突然変異を有するより多くの膵臓がん患者』を同定するようになるかもしれないと考えています。米国の新しいNCCN診療ガイドラインによると、現在、膵臓がん病歴のあるすべての患者に遺伝子検査が推奨されています」とシオメノ博士は続けます。一般に、米国国立がん研究所(NCI)によると、有害なBRCA突然変異はまだ比較的まれであるので、ほとんどの専門家は、がんに罹患していない個人の遺伝子検査は、BRCA突然変異の家族歴がある場合にのみ実施すべきだという意見を支持しています。 (翻訳:パンキャン事務局)


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■参考記事  New England Journal of Medicine 2019年6月2日
「Maintenance Olaparib for Germline BRCA-Mutated Metastatic Pancreatic Cancer」(生殖細胞系BRCA変異転移性膵臓がんに対する維持療法オラパリブ)
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1903387
*上記記事で紹介されたNew England Journal of Medicineで発表された臨床試験です

CNNニュース URL:C

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