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海外ニュース:Pan-KRAS阻害薬が切り拓くKRAS変異がん治療の新時代

海外ニュース:Pan-KRAS阻害薬が切り拓くKRAS変異がん治療の新時代

~ Broad-spectrum治療と耐性克服への挑戦 ~



◆「創薬不可能」と呼ばれたKRASが、なぜ今大きく変わろうとしているのか

膵臓がんの研究に携わる医師や研究者が、「KRAS」という遺伝子の名前を口にしない日はないと言っても過言ではありません。それほどまでにKRASは膵臓がんの発症と進行に深く関わる重要な遺伝子です。

KRASは、細胞の増殖や分裂を調節する「スイッチ」のような役割を担っています。正常な細胞では、必要なときだけスイッチが入り、役目を終えると再び切れます。しかしKRASに変異が生じると、このスイッチが入りっぱなしになり、細胞は増殖を止めることができなくなります。その結果、がん細胞が増え続け、腫瘍が形成されます。

KRAS変異は多くのがんで認められますが、特に膵臓がんでは約90%以上の患者さんに存在するとされ、まさに膵臓がんを特徴づける分子異常と言えます。大腸がんでは約40%、肺腺がんでは約30%に認められますが、膵臓がんほど高頻度にKRAS変異が見られるがんは多くありません。

ところが、この重要なKRASは長年にわたり「創薬不可能(Undruggable)」と呼ばれてきました。

その理由は、KRASタンパク質の表面が非常に滑らかで、薬剤が結合できる「ポケット」がほとんど存在しなかったためです。分子標的薬は通常、タンパク質の特定のくぼみに結合して働きを止めますが、KRASにはそのような結合部位が見つからず、世界中の製薬企業が挑戦しては断念する状況が続いていました。

しかし2013年頃から状況が大きく変わります。KRASタンパク質を詳しく解析した結果、「Switch II Pocket(SII-P)」と呼ばれる小さな結合部位が発見されました。この発見をきっかけに、KRASを標的とする薬剤開発が一気に加速し、ついに2021年、世界初のKRAS阻害薬であるソトラシブ(Sotorasib)が米国FDAで承認されました。続いてアダグラシブ(Adagrasib)も承認され、「KRASは創薬不可能」という長年の常識は覆されたのです。

これは分子標的治療の歴史における大きな転換点でした。しかし、実際に臨床で使用されるようになると、新たな課題も明らかになってきました。


◆KRAS G12C阻害薬が切り開いた時代と、その限界

ソトラシブやアダグラシブは、「KRAS G12C」という特定の変異だけを標的とする薬剤です。G12Cとは、KRAS遺伝子の12番目のアミノ酸がグリシン(Glycine)からシステイン(Cysteine)へ置き換わった変異を意味します。

この変異は非小細胞肺がんでは比較的多く認められるため、G12C阻害薬は肺がん治療に新たな選択肢をもたらしました。しかし、膵臓がんでは事情が異なります。

膵臓がんで最も多いKRAS変異はG12Dであり、次いでG12V、G12Rなどが続きます。一方、G12C変異はわずか1〜2%程度しか存在しません。つまり、画期的なG12C阻害薬が登場しても、その恩恵を受けられる膵臓がん患者さんはごく一部に限られてしまうのです。

さらに、もう一つ大きな問題があります。それは**薬剤耐性**です。

KRASは細胞内で「ON」と「OFF」の状態を絶えず切り替えています。GTPという分子が結合しているときは「ON」、GDPが結合しているときは「OFF」となります。従来のG12C阻害薬は、このうち「OFF状態」のKRASにしか結合できません。

そのため、治療を続けているうちに、がん細胞はKRASをON状態に保つようになったり、別のシグナル伝達経路を活性化したりして、薬の効果を回避するようになります。実際には、EGFRやSHP2などの分子を利用したバイパス経路の活性化や、新たなKRAS変異の獲得など、さまざまな耐性機構が報告されています。

つまり、現在のKRAS阻害薬は「特定の変異だけ」を標的とし、「OFF状態でしか作用しない」という二つの制約を抱えているのです。

この問題を克服するためには、より幅広いKRAS変異に対応し、しかも耐性が生じにくい新しい治療戦略が必要になります。その答えとして登場したのが、「Pan-KRAS阻害薬」という新しい概念です。



◆Pan-KRAS阻害薬という新しい考え方

Pan-KRAS阻害薬は、従来のように一つの変異だけを狙うのではなく、多くのKRAS変異に共通する構造を標的にすることで、幅広い患者さんを治療対象にしようとする新しい分子標的薬です。

「Pan」とは「すべて」「全体」を意味する言葉です。Pan-KRAS阻害薬は、G12D、G12V、G12R、G13D、Q61Hなど、複数のKRAS変異に対して同時に作用することを目指しています。そのため、「Broad-spectrum(広域スペクトラム)」のKRAS阻害薬とも呼ばれています。

これは膵臓がんにとって極めて重要な意味を持ちます。膵臓がんでは患者さんごとにKRAS変異の種類が異なり、これまではそれぞれの変異に対応した薬剤を個別に開発する必要がありました。しかしPan-KRAS阻害薬が実用化されれば、多くの患者さんを一つの薬剤で治療できる可能性が生まれます。

さらに、Pan-KRAS阻害薬は耐性克服という点でも期待されています。変異ごとの違いではなく、KRASタンパク質に共通する構造を標的とするため、新たな変異が生じても薬剤の効果が維持される可能性があるからです。

近年では、ベーリンガーインゲルハイム社が開発したBI-2865や、その改良型であるBI-2493が前臨床試験で有望な結果を示しています。また、ON状態とOFF状態の両方に結合できる「Dual-state阻害薬」や、KRASタンパク質そのものを分解してしまう「Pan-KRAS degrader」といった次世代技術も急速に開発が進んでいます。

これらの新しい薬剤は、単にKRASの働きを抑えるだけでなく、薬剤耐性の克服や免疫療法との併用による相乗効果も期待されています。研究者の間では、「KRAS変異がん治療は、変異特異的阻害薬の時代からPan-KRAS阻害薬の時代へ移行しつつある」との見方も広がっています。

膵臓がん患者さんにとって、この流れはこれまで経験したことのない大きな希望です。これまで治療の選択肢が限られていたKRAS変異がんに対し、多くの患者さんが対象となる新しい治療法が現実味を帯びてきたからです。そして、このPan-KRAS阻害薬の進歩をさらに加速させているのが、「Dual-state阻害薬」という革新的な技術です。次章では、その代表的な薬剤であるBI-2865、BI-2493、MCB-294、AMG 410について、それぞれの特徴と最新の研究成果を詳しく見ていきます。



◆BI-2865・BI-2493が示した新しい可能性

Pan-KRAS阻害薬という概念を現実のものへと大きく前進させたのが、ドイツのベーリンガーインゲルハイム社が開発した BI-2865です。この薬剤が注目を集めた理由は、それまでのKRAS阻害薬とは全く異なる発想で設計された点にあります。

従来のG12C阻害薬は、「G12C」という一種類の変異だけを標的としていました。一方、BI-2865は、KRASタンパク質に共通する構造へ結合することで、G12D、G12V、G12R、G13Dなど複数の変異型KRASに対して作用することができる初めての低分子化合物として報告されました。

前臨床試験では、さまざまなKRAS変異を持つがん細胞の増殖を抑制し、マウスの腫瘍モデルでも優れた抗腫瘍効果が確認されています。特に膵臓がん細胞株では高い活性が示され、「KRAS変異の種類を超えて治療できる可能性」を初めて具体的に示した薬剤として大きな注目を浴びました。

もっとも、BI-2865にも課題がありました。薬物動態や体内での安定性、経口投与後の利用効率など、臨床応用に向けて改善すべき点が残されていたのです。

そこで開発された改良型が BI-2493 です。

BI-2493は、BI-2865の基本構造を維持しながら、体内での安定性や薬剤曝露量を改善するよう設計されました。その結果、より長時間KRASを阻害できる可能性が示され、前臨床試験ではより強力で持続的な腫瘍抑制効果が報告されています。

さらに興味深いのは、BI-2493が単独で使用されるだけでなく、他の分子標的薬との併用療法にも適していると考えられている点です。KRASを阻害すると、がん細胞は別のシグナル経路を利用して生き残ろうとします。そこでEGFR阻害薬やSHP2阻害薬、SOS1阻害薬などを組み合わせることで、逃げ道を同時に塞ぎ、耐性の発現を抑える戦略が期待されています。

このように、BI-2865とBI-2493は「Pan-KRAS阻害」という概念を証明しただけでなく、「併用療法を前提とした次世代創薬」という方向性も示した重要な薬剤と言えるでしょう。



◆Dual-state阻害薬という次世代戦略

KRAS阻害薬の開発において、研究者が長年直面してきた課題の一つが、「KRASは常に同じ状態では存在していない」という点でした。

KRASは細胞内でGTPを結合した「ON状態」と、GDPを結合した「OFF状態」を繰り返しています。この切り替えによって細胞の増殖シグナルが精密に制御されていますが、がん細胞ではKRASがON状態に偏り、増殖シグナルが持続的に送り続けられます。

従来のG12C阻害薬はOFF状態にしか結合できませんでした。そのため、治療中にKRASがON状態へ移行すると、薬剤は十分に作用できなくなり、耐性の一因となっていました。

そこで登場したのが、「Dual-state阻害薬」という新しい考え方です。

Dual-state阻害薬は、その名の通り、ON状態とOFF状態の両方のKRASに作用できるよう設計されています。理論的には、KRASがどちらの状態にあっても活性を抑えられるため、従来より強力で持続的な抗腫瘍効果が期待されます。

論文では、このアプローチがPan-KRAS阻害薬と並ぶ重要な技術革新として紹介されています。

特に膵臓がんでは、KRASの活性化が極めて強く、腫瘍細胞の多くがON状態を維持しています。そのためDual-state阻害薬は、膵臓がんとの相性が非常に良い可能性があります。

さらに、この技術には耐性克服という大きな利点もあります。がん細胞は薬剤から逃れるためにKRASの状態を変化させることがありますが、Dual-state阻害薬ではその逃げ道が狭くなるため、耐性が生じにくくなることが期待されています。

もちろん、現在はまだ研究開発の段階であり、安全性や有効性については今後の臨床試験で確認する必要があります。しかし、「KRASの状態そのものを問わず阻害する」という発想は、これまでの分子標的治療の常識を大きく変える可能性を秘めています。



◆MCB-294とAMG 410が示す未来

Pan-KRAS阻害薬の開発競争は、現在、世界中の製薬企業やバイオベンチャーによって急速に進められています。その中でも近年特に注目を集めているのが、MCB-294AMG 410 です。

MCB-294は、複数のKRAS変異に対して幅広く作用するよう設計された次世代Pan-KRAS阻害薬です。前臨床試験では、膵臓がん、大腸がん、肺がんなど、異なるKRAS変異を有する腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果が確認されており、「一つの薬剤で多様なKRAS変異に対応する」というPan-KRASの理念を体現する候補薬の一つと位置づけられています。

一方、AMG 410は、KRAS創薬の先駆者であるアムジェン社が開発を進めるPan-KRAS阻害薬です。ソトラシブの開発で培われた知見を基盤として設計されており、KRAS変異全体を視野に入れた治療を目指しています。

論文では、これらの薬剤が従来薬よりも広い適応を持つ可能性に加え、他の抗がん剤や分子標的薬との併用にも適していることが期待されています。KRASを抑えるだけではなく、EGFR、SHP2、MEK、さらには免疫チェックポイント阻害薬などと組み合わせることで、より強力な抗腫瘍効果が得られる可能性が検討されています。

また、膵臓がんは線維化が強く、薬剤が腫瘍内部へ到達しにくいという特徴があります。そのため、単にKRASを阻害するだけでなく、腫瘍微小環境を改善する治療や免疫療法との組み合わせが重要になると考えられています。Pan-KRAS阻害薬は、そのような複合治療の「中核」として位置づけられる可能性があります。

一方で、現時点では慎重な見方も必要です。MCB-294やAMG 410はいずれも開発段階にあり、その有効性や安全性は今後の臨床試験によって評価されます。前臨床試験で優れた結果が得られても、実際の患者さんで同様の成果が得られるとは限りません。また、長期間使用した際の耐性や副作用についても、これから明らかにされる課題です。

それでも、複数の企業が異なるアプローチでPan-KRAS阻害薬を開発していること自体が、この分野の進展の速さを物語っています。KRASはかつて「創薬不可能」とまで言われた標的でしたが、現在では変異特異的阻害薬、Pan-KRAS阻害薬、Dual-state阻害薬、さらにはKRAS分解誘導薬(degrader)まで、多彩な戦略が並行して開発されています。

このような急速な技術革新は、膵臓がんをはじめとするKRAS変異がん患者さんに、新たな治療選択肢が現実のものとなりつつあることを示しています。



◆Pan-KRAS degraderという第三のアプローチ

これまで紹介してきたPan-KRAS阻害薬やDual-state阻害薬は、いずれもKRASタンパク質の働きを「抑える」ことを目的としています。しかし近年、創薬の世界ではさらに新しい発想が生まれています。それが「KRAS degrader(KRAS分解誘導薬)」です。

Degraderとは、標的タンパク質を阻害するのではなく、細胞内のタンパク質分解システムを利用して、そのタンパク質自体を分解・除去してしまう薬剤です。この考え方は、近年急速に発展しているPROTAC(Proteolysis Targeting Chimera)などの技術によって実現可能となりました。

KRASに応用した場合、薬剤はKRASタンパク質と細胞内のユビキチン–プロテアソーム系を橋渡しし、KRASを不要なタンパク質として認識させます。その結果、KRASそのものが分解され、細胞内から消失します。

この方法には大きな利点があります。

第一に、KRASの活性状態に左右されにくいことです。従来の阻害薬ではON状態やOFF状態が治療効果に影響しましたが、degraderではKRASそのものを除去するため、その制約を受けにくい可能性があります。

第二に、耐性克服への期待です。KRASを部分的に抑制するだけでは、がん細胞が別の経路を利用して生き残ることがあります。しかしKRAS自体が細胞から取り除かれれば、耐性の発生を抑えられる可能性があります。

もちろん、この技術はまだ研究段階であり、分解効率や正常組織への影響、薬剤送達など解決すべき課題も少なくありません。しかし、阻害薬とは異なる作用機序を持つため、今後は阻害薬とdegraderを適切に使い分けたり、組み合わせたりする時代が訪れる可能性があります。

論文では、このdegrader戦略を「Pan-KRAS創薬における第三の柱」と位置付けています。創薬不可能と考えられていたKRASに対し、「阻害する」「ON・OFF両状態を狙う」「分解する」という複数のアプローチが同時に進んでいることは、この分野の進歩の速さを象徴しています。



◆Pan-KRAS阻害薬は膵臓がん治療をどう変えるのか

Pan-KRAS阻害薬が実用化された場合、最も大きな恩恵を受ける可能性があるのは、やはり膵臓がん患者さんです。

膵臓がんでは約90%以上にKRAS変異が存在します。その内訳はG12Dが約40%、G12Vが約30%、G12Rが約15%前後を占め、G12C変異はごく少数です。そのため、これまでの変異特異的阻害薬では、多くの患者さんが治療対象になりませんでした。

Pan-KRAS阻害薬は、この状況を大きく変える可能性があります。変異の種類にかかわらず作用する薬剤が実用化されれば、膵臓がん患者さんの大多数が分子標的治療の対象となる可能性があるからです。

もちろん、Pan-KRAS阻害薬だけで膵臓がんを克服できるわけではありません。

膵臓がんは線維化が強く、薬剤が腫瘍内部へ届きにくいという特徴があります。また、免疫細胞が腫瘍内へ入り込みにくい「免疫抑制性腫瘍微小環境」も形成されています。このため、KRASを抑えるだけでは十分な効果が得られない可能性もあります。

そこで期待されているのが、併用療法です。

Pan-KRAS阻害薬を化学療法、EGFR阻害薬、SHP2阻害薬、MEK阻害薬、あるいは免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせることで、より高い治療効果が期待されています。現在、多くの臨床試験では、このような併用戦略が積極的に検討されています。

さらに、将来的には患者さんごとのKRAS変異や腫瘍の特徴に応じて、変異特異的阻害薬、Pan-KRAS阻害薬、Dual-state阻害薬、degraderを使い分ける「精密医療(Precision Medicine)」が進展する可能性もあります。

この点で注目されるのが、現在臨床開発が進む**daraxonrasib(RMC-6236)**です。RMC-6236は「RAS(ON)阻害薬」と呼ばれ、活性化したRASタンパク質を標的とする新しい機序を持っています。Pan-KRAS阻害薬とは作用機序が異なるものの、多様なKRAS変異を持つ患者さんを対象とできる可能性があり、膵臓がん領域で特に期待されています。

また、MRTX1133はG12D変異を高選択的に阻害する薬剤として開発が進んでいます。膵臓がんで最も多い変異を標的とする点で重要な候補ですが、適応はG12D変異に限られます。

このように今後は、「特定の変異を強力に狙う薬」と「幅広い変異に対応するPan-KRAS薬」が互いに競合するのではなく、それぞれの特徴を生かして使い分けられる時代になると考えられます。



◆パンキャンジャパンから見たPan-KRAS阻害薬の意義

KRASは長年、「創薬不可能」と呼ばれてきました。しかし現在では、その常識は大きく覆されつつあります。

最初はKRAS G12C阻害薬が誕生し、続いてG12D阻害薬の開発が進み、さらにPan-KRAS阻害薬、Dual-state阻害薬、RAS(ON)阻害薬、そしてKRAS degraderへと研究は急速に発展しています。

これは、KRAS創薬が「一つの変異を狙う時代」から、「KRAS全体を制御する時代」へ移行しつつあることを意味しています。

膵臓がん患者さんにとって、この変化は極めて重要です。

これまで膵臓がんでは、KRAS変異が存在することは分かっていても、それを直接標的とする治療法はほとんどありませんでした。多くの患者さんは化学療法に頼らざるを得ず、分子標的治療の恩恵を十分に受けることができませんでした。

しかし、Pan-KRAS阻害薬が実用化されれば、多くの患者さんに新たな治療の選択肢が提供される可能性があります。それは単に新しい薬が一つ増えるということではなく、「KRAS変異を持つ膵臓がんに対する治療戦略そのものが変わる」ことを意味しています。

一方で、パンキャンジャパンとして強く意識しなければならない課題があります。それは、日本におけるドラッグラグドラッグロスです。

世界で革新的な治療薬が開発されても、日本での治験開始や承認が遅れれば、その恩恵を日本の患者さんが受けるまでに何年もの時間がかかります。膵臓がんは進行が速く、予後が厳しい疾患です。新薬へのアクセスが数年遅れることは、多くの患者さんにとって治療機会そのものを失うことにつながりかねません。

そのため、日本でも国際共同治験への積極的な参加、迅速な治験開始、審査・承認体制のさらなる改善が求められます。革新的な薬剤を一日でも早く患者さんへ届けることは、研究者や製薬企業だけでなく、行政、医療機関、患者団体が共通して取り組むべき課題です。

Pan-KRAS阻害薬は、まだ開発途上の技術です。しかし、その進歩はこれまで「治療標的がない」と考えられていたKRAS変異がんに、新しい希望をもたらしています。

膵臓がん領域では、早期発見、革新的な新薬、そして迅速なアクセスの三つがそろって初めて、多くの患者さんの命を救うことができます。パンキャンジャパンは今後も、患者さんの声を社会へ届けるとともに、革新的な治療薬が日本でも速やかに利用できる環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。

 

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Resources: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12980034/

 

 

 

ASCOニュース:膵臓がん研究の最新動向(ASCO2026)

ASCOニュース:膵臓がん研究の最新動向(ASCO2026)

2026年6月29日


2026年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会は、膵がん研究にとって注目すべき会合となった。
2026年5月29日から6月2日までイリノイ州シカゴで開催された本会議のハイライトは、第III相RASolute 302試験の結果発表でした。この試験では、前治療歴のある転移性膵がん患者において、治験薬ダラクソンラシブが生存率を著しく改善するという、画期的かつ前例のない知見が得られ、当然のことながら高い評価を受けた。しかし、2026年の学会で発表された重要な膵がん研究のニュースはこれだけではなかった。この学会では、標的療法、免疫療法、早期発見などに焦点を当てた膵がん研究も数多く紹介された。ここでは、学会で発表されたその他の研究成果について詳しくご紹介する。例年通り、これらの知見については今後数ヶ月の間にさらに詳しく取り上げていく予定である。

◆MAPK経路を標的とする治療

臨床腫瘍学企業であるImmuneering社は、開発中の薬剤アテビメチニブを、修飾ゲムシタビンおよびnab-パクリタキセルと併用した場合の有望な第IIa相臨床試験データを発表した。この試験では、転移性膵がん患者に対する第一選択治療として、この併用療法の有効性が検証されている。アテビメチニブは、膵がん患者においてしばうしば過剰活性化しているシグナル伝達経路であるMAPK経路を標的としている。この薬剤は、当該経路を阻害するように設計されている。


第IIa相試験の結果では、55名の転移性膵がん患者からなる拡大コホートにおける生存アウトカムが注目された。奏効を評価できた50名の患者において、確認された客観的奏効率は36%、疾患制御率は82%であった。全55名の参加者からなるコホート全体では、全生存期間の中央値は17.3ヶ月、無増悪生存期間の中央値は8.3ヶ月であった。循環腫瘍DNA(ctDNA)からRAS変異が検出された43名の患者では、客観的奏効率は40%、疾患制御率は86%であった。3ヶ月時点で、患者の85%近くが体重が安定していたか、体重が増加していた。同社は、この薬剤併用療法と化学療法単独療法をさらに比較評価するため、世界規模の無作為化第III相試験「MAPKeeper 301」を開始したばかりである。

◆クラウディン18.2を標的とする

クラウディン18.2は、一部の消化器がんにおいて重要なバイオマーカーとして注目されている細胞膜タンパク質である。ASCO会議での発表では、未治療の進行性膵がん患者に対する第一選択治療として、クラウディン18.2およびCD3を標的とする抗体QLS31905を化学療法と併用した早期段階のIb/II相試験の結果が報告された。この併用療法では、客観的奏効率59.8%、疾患制御率89.0%が示された。本試験では、クラウディン18.2の発現レベルが低い患者においても、有望な抗腫瘍活性が認められた。本試験には、膵臓がん患者88名と胃がん患者43名が参加した。

◆高リスク群を対象としたCA 19-9サーベイランス検査

CA 19-9検査は、血液サンプル中のCA 19-9タンパク質の量を測定するものである。CA 19-9値が高いことは、膵臓がんを含む特定の消化管がんの兆候となり得る。研究者らは、高リスク群を対象とした膵臓がんサーベイランスプロトコルの一環としてのCA 19-9検査の有用性を評価した。データによると、CA 19-9のような血液由来のバイオマーカーは、画像所見が確認される前に異常を察知できる場合が多いことが示された。研究者らは、前向き縦断的評価の必要性を強調した。CA 19-9値は黄疸などの良性疾患によって偽陽性となる可能性があるため、診断精度を向上させるべく、定期的またはベースラインのモニタリングが検討されている。

◆早期発見のための液体生検

ClearNote Healthは、同社のAvantect®膵臓がん検査に関する新たな多コホート検証データを発表した。2型糖尿病、家族歴、膵臓がんの遺伝的素因など、複数のリスク要因を持つ1,445名を対象とした独立した検証コホートにおいて、この検査は82.6%の全体感度を示した。また、早期(I~II期)の疾患に対しては76.8%の感度と97.5%の特異度を示した。さらに、計338名からなる2つの追加検証コホートにおいても、新規発症の2型糖尿病患者において一貫した性能が確認された。

以上



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(Source:Research-Let's Win Lustgarten Foundation)

<免責事項>この医療記事は、米国のがん研究、臨床試験を紹介する目的で書かれています。特定の治療法や薬の使用を推奨するものではありません。ご自身の病状については、担当医とよく話し合ってください。このウェブサイトの情報を利用して生じた結果についてPanCANJapanは一切責任を負うことができませんのでご了承ください                      

海外ニュース:KRAS G12Dへの取り組み

海外ニュース:KRAS G12Dへの取り組み

2026年7月22日

 

発がん遺伝子KRASは、膵臓がんの研究において中心的な存在となっています。

RAS、特にKRASを標的とする薬剤は、転移性疾患の治療法を一変させる可能性を秘めている。現在はKRAS阻害剤であるダラクソンラシブに注目が集まっているが、他にも多くのKRAS阻害剤が開発段階にある。これらの薬剤は互いに全く同じというわけではなく、阻害剤ごとにKRASやその変異体を異なる方法で標的としている。その一つが、Verastem Oncology社のVS-7375であり、これはKRAS G12Dのいわゆる「オン」状態および「オフ」状態の両方を標的としています。現在被験者を募集中の第I/II相臨床試験の中間結果は、非常に有望なものです。この薬剤は、化学療法の有無にかかわらず、KRAS G12D変異を有する局所進行性または転移性膵臓がん患者に対する第一選択治療として、2025年にFDAからファストトラック指定を受けた。(ファストトラックとは、重篤な疾患の治療や予防を目的とし、未充足の医療ニーズに対応する新薬の開発を促進し、審査を迅速化するために設けられた制度である。)VS-7375とは?KRAS変異は、多くの固形がんにおいて正常細胞ががん化することを促進する最も一般的な遺伝子変異の一つです。

ボストンのマサチューセッツ総合病院で本薬剤の第I/II相試験を主導している消化器腫瘍専門医のレオン・パパス医学博士(Ph.D.、M.S.C.)は、KRAS遺伝子の変異が膵臓がんの90%以上における主要な発症要因であると説明しています。KRAS変異には多岐にわたる種類があり、それに対する薬剤の有効性にも大きなばらつきがあります。肺がんの約13%に見られるKRAS G12C変異に対しては有効な薬剤が存在しますが、膵臓がんではこの変異が認められるケースはごくわずかです。このKRAS変異は、従来の共有結合型薬剤が「引っ掛かる」ことのできる「フック」を提供しているが、膵臓がんの約40%を駆動するKRAS G12D変異には、そのような機会がない。

KRASのG12D変異には、薬剤との相互作用に必要な、いわゆる結合ポケットが欠けているのだ。しかし、従来の薬剤開発手法で比較的容易に標的とすることができたKRAS G12C変異とは異なり、「KRAS G12DはKRAS G12Cのような化学的な『フック』を持たず、分子の活性状態である『オン』の状態に長く留まるため、標的とするのはより大きな課題となっている」とパパス氏は述べる。実際、KRAS G12Dの独特な構造は、これを難攻不落の標的にしている。さらに、KRASタンパク質のG12C変異体は、分子の不活性な「オフ」状態で過ごす時間が長い。これにより、薬剤は特定のポケットを利用してタンパク質に結合・阻害し、タンパク質を「オフ」状態に固定することができる。一方、G12D変異体を標的とするのは、活性状態である「オン」の状態に多くの時間を費やすため、はるかに複雑です。そこで登場するのがVS-7375です。従来の阻害剤は、一般的にKRASの休止状態、つまり科学用語で言えば、不活性なグアノシン二リン酸(GDP)結合型の「オフ」状態に結合します。

しかし、VS-7375は、活性型のグアノシン三リン酸結合(GTP結合)「オン」状態と「オフ」状態の両方を阻害するように設計されている。KRASの「オン」状態と「オフ」状態の両方を標的とすることで、RAS/MAPK経路を介したシグナル伝達を遮断できると、パパス氏は説明する。「この経路(RAS/MAPK)は、細胞の生存、増殖、分裂といった挙動を制御するシグナル伝達を担っています」と彼は指摘する。「変異が生じると、そのシグナル伝達が制御不能な細胞増殖を引き起こし、これこそががんの定義そのものです。そのシグナル伝達を遮断することで、理論上はがんを駆動するシグナルを遮断することになります。」

実際、第I/II相試験の初期の中間結果は有望である。本試験では、進行性膵臓がんを含む、KRAS G12D変異を有する既治療の進行性固形腫瘍患者を対象に、VS-7375の安全性および有効性を、単剤療法および他の標準治療との併用療法の両方について評価している。

同社によると、2025年第4四半期に報告された結果では、VS-7375は1日400mgおよび600mgの単剤投与量において、用量制限毒性は認められず、両用量ともクリアした。さらに、Verastemの提携先であるGenFleet Therapeuticsが、中国で進行中のVS-7375(GFH375として知られる)を評価する第I/II相臨床試験において、膵臓がんおよび非小細胞肺がんの両方について以前に発表したデータと同様に、今回の結果に関連して新たな安全性上の懸念は認められなかった。

具体的には、米国のコホートで評価された2つの用量レベルにおいて、グレード1を超える悪心、嘔吐、下痢は報告されなかった。VS-7375試験における単剤療法の用量漸増は、GenFleet社の試験で特定された400 mgおよび600 mgの用量から開始された。GenFleet社は、中国における第2相試験の推奨用量として600 mgを選択した。

2026年6月、同社はさらなる用量漸増および対象患者層の拡大に関する主な成果を発表した。例えば、既治療の転移性膵臓がん患者を対象とした900 mgの単剤療法において有望な臨床効果が認められ、600 mgから900 mgの範囲で用量依存的な抗腫瘍活性が示された。安全性プロファイルは良好で、有害事象は主に軽度の悪心、嘔吐、下痢であり、これらは時間の経過とともに減少した。

◆さらなる臨床試験

Verastem社はまた、TARGET-D 201と名付けられた臨床試験の開始も発表した。この試験は、第II相、非盲検、多施設共同試験であり、二次治療段階の転移性膵管癌患者を対象に、VS-7375 900 mgを1日1回投与する単剤療法および全用量のセツキシマブとの併用療法を評価するものである。同社によると、本試験では、転移性膵臓がんの第一線治療においても、VS-7375 900 mgとセツキシマブの併用を評価しており、これは化学療法を伴わない第一線治療レジメンとなる可能性を秘めているという。

この薬剤は期待が持てるものであり、標的化が困難なKRAS変異に対処するための新たなアプローチを示していますが、特定の臨床状況における有効性を包括的に評価する上では、より大規模な無作為化第III相試験が依然としてゴールドスタンダードであることに留意することが重要だと、パパス氏は述べています。「これは、確かな生物学的根拠と有望な初期段階の結果を持つ分子です」と彼は付け加えます。「この薬剤が、拡張コホートやセツキシマブとの併用療法において、そしてもちろん今後実施される大規模な進行期患者を対象とした試験でどのような結果を示すか、楽しみにしています。」

患者に利用可能となった治療選択肢に対する期待感は、はっきりと感じられると彼は指摘する。「わずか数年という短期間のうちに、RASを標的とした薬剤開発が相次ぎ、多くの患者がこれらの薬剤から顕著な効果を得ているのを目にしてきました」とパパス氏は述べる。「これらは膵臓がん患者にとって重要な進歩であり、この疾患におけるRAS標的療法の将来に期待を寄せています。」

以上

 

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(Source:Research-Let's Win Lustgarten Foundation)

<免責事項>この医療記事は、米国のがん研究、臨床試験を紹介する目的で書かれています。特定の治療法や薬の使用を推奨するものではありません。ご自身の病状については、担当医とよく話し合ってください。このウェブサイトの情報を利用して生じた結果についてPanCANJapanは一切責任を負うことができませんのでご了承ください

 

 

ASCOニュース:ダラクソンラシブの作用に関する詳しい説明

ASCOニュース:ダラクソンラシブの作用機序(どのように効くのか)

ダラクソンラシブは、変異型および野生型RASの活性型グアノシン三リン酸(GTP)結合状態を標的とする、経口投与可能なRAS(ON)多選択性トリコンプレックス阻害剤とASCO2026で説明されました。がん細胞が増えるために使っている「RAS」というスイッチが“入っている状態”だけを狙って止める、新しいタイプの飲み薬です。 ここでは、その仕組みをやさしく説明します。

 

● RASとは?

  • がん細胞が増えるために使う「成長スイッチ」のようなタンパク質
  • 膵臓がんでは 約9割 が RAS(特に KRAS)に異常があります

● “活性型GTP結合状態”とは?

  • RAS には「ON(増殖する)」「OFF(止まる)」の2つの状態があります
  • GTP がくっついていると ON の状態
  • がん細胞はこの ON の状態を維持して増え続ける

● ダラクソンラシブが狙うところ

  • RAS が ON の状態だけをピンポイントで狙って止める
  • しかも、
    • 変異した RAS(がん細胞に多い)
    • 変異していない RAS(正常細胞にもある)
      の両方の “ON状態” を抑えることができる

● “トリコンプレックス阻害剤”とは?

  • ダラクソンラシブは、RAS を直接つかまえるのではなく、
    RAS が働くために必要な3つの分子の“組み合わせ(トリコンプレックス)”を壊す
  • その結果、RAS のスイッチが入らなくなる

● “経口投与可能”とは?

  • 飲み薬として使える(点滴ではない)

◆ まとめ

ダラクソンラシブは、がん細胞が増えるために使う「RAS」というスイッチが入った状態だけを狙って止める、飲み薬タイプの新しい治療薬です。

 

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この記事は、PanCANの最高科学・医療責任者(Chief Scientific and Medical Officer)である、Anna Berkenblit(アナ・バーケンブリット)医学博士によるASCO2026に関する報告の抜粋です。

ASCOニュース:KRAS阻害剤ダラクソンラシブの臨床試験について

ASCOニュース:KRAS阻害剤ダラクソンラシブの臨床試験について

 

ASCO2026で話題となったこの臨床試験には、500名の膵がん患者さんが参加しました。
そのうち 91.8%の方が「RAS G12」という遺伝子の変化を持っていました。

患者さんは、

  • ダラクソンラシブを飲む治療(248名)
  • 従来の化学療法(252名)
    のどちらかに無作為に分けられました。

● 生存期間(治療を続けられた期間の目安)

RAS G12変異を持つ患者さんでは:

  • ダラクソンラシブ:中央値 13.2か月
  • 化学療法:中央値 6.6か月

つまり、ダラクソンラシブを使った方が、約2倍長く生存できたという結果でした。

全体の患者さんでも同じ傾向が見られました。

  • ダラクソンラシブ:13.2か月
  • 化学療法:6.7か月

● 病気が進行しない期間(無増悪生存期間)

RAS G12変異を持つ患者さんでは:

  • ダラクソンラシブ:中央値 7.3か月
  • 化学療法:中央値 3.5か月

こちらも、ダラクソンラシブの方が約2倍長く病気の進行を抑えられたという結果でした。

 

● 副作用について

治療中に何らかの副作用が起きた方は、

  • ダラクソンラシブ:100%
  • 化学療法:97.7%

と、どちらの治療でも多くの方に副作用がみられました。

ただし、重い副作用(グレード3以上)

  • ダラクソンラシブ:61.8%
  • 化学療法:69.6%

と、化学療法よりやや少ない結果でした。

また、副作用が原因で治療を中止した方は

  • ダラクソンラシブ:1.2%
  • 化学療法:11.2%

と、ダラクソンラシブの方が少なくなっています。

◆ まとめ

  • ダラクソンラシブは、生存期間・病気の進行を抑える期間ともに、従来の化学療法より良い結果が示されました。
  • 重い副作用の割合も化学療法より低く、治療中止に至るケースも少ないという特徴があります。
  • ただし、副作用は必ず起こりうるため、治療中は医療チームと密に相談しながら進めることが大切です。

 



PanCAN Japan からのメッセージ  
この結果は、RAS G12変異を持つ膵がんの患者さんにとって、新しい治療の可能性を示すものです。  
一方で、副作用は必ず起こりうるため、治療を進める際には、主治医や医療チームとよく相談しながら、  
ご自身の体調や生活に合わせた治療選択をしていくことが大切です。

PanCAN Japan は、患者さんとご家族が必要な情報にアクセスできるよう、  
これからも最新の治療情報をわかりやすくお届けしてまいります。

 

海外ニュース:研究 ダラクソンラシブ臨床試験の最終結果は前例のないものとなった

海外ニュース:研究 ダラクソンラシブ臨床試験の最終結果は前例のないものとなった

2026年6月4日

ASCO2026の会場にてレボリューション・メディシンス社がRASolute 302臨床試験の最終データを発表した後、当然のことながらスタンディングオベーションが巻き起こった。

この報告は、5月29日から6月2日までシカゴで開催された2026年ASCO年次総会の目玉イベントとなった。この臨床試験では、転移性膵臓がんの二次治療薬として、KRAS阻害剤「ダラクソンラシブ」が検証された。ダラクソンラシブは、膵臓がんの90%以上を促進する原因となっている変異型KRASタンパク質を標的として成功した初の薬剤である。KRASはこれまで「薬物標的化不可能」と見なされていた。

会場は大歓声に包まれた

ダラクソンラシブは、「ゲームチェンジャー」や「グランドスラム」、さらには転移性疾患患者の予後を大幅に改善する「診療実践を変える画期的な進歩」と称されている。ブライアン・ウォルピン医学博士(公衆衛生学修士)(マサチューセッツ州ボストンのダナ・ファーバーがん研究所ヘイル・ファミリー膵臓がん研究センター所長であり、「Let’s Win」の科学諮問委員会メンバー)が、この研究結果を発表しました。

この薬剤は根治的な治療法ではないものの、1日1回の経口投与であり、既治療の転移性膵がん患者において、治験責任医師が選択した化学療法と比較して、全生存期間、無増悪生存期間、客観的奏効率、および患者が報告する生活の質(QOL)において、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した。発表された第III相試験の結果によると、これらの改善はRAS変異の有無にかかわらず認められ、この結果はニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンにも同時に掲載された。

ウォルピン氏は、ダラクソンラシブが既治療の転移性膵がんに対する「新たな標準治療」となるべきだと考えている。また、転移性患者に対する第一選択治療として同薬を検証する臨床試験が現在進行中であることも指摘した。

研究の詳細

実際、RASolute 302試験の最終結果は注目に値する。その主なポイントは以下の通りである。

  • RAS G12変異を有する228名の患者を対象とした二重主要解析集団において、ダラクソンラシブは化学療法と比較して死亡リスクを60%低減させた。
  • 追跡期間中央値8.5ヶ月時点で、ダラクソンラシブ群の全生存期間中央値は13.2ヶ月であったのに対し、標準化学療法群では6.6ヶ月であった。
  • 12ヶ月時点の全生存率は、ダラクソンラシブ群で53.3%、化学療法群で18.7%であった。
  • 無増悪生存期間の中央値は、ダラクソンラシブ群で7.3ヶ月、化学療法群で3.5ヶ月であった。
  • 6ヶ月無増悪生存率は、ダラクソンラシブ群で58.7%、化学療法群で31.7%であった。
  • 全奏効率は、ダラクソンラシブ群で33.2%、化学療法群で11.8%であった。

比較的まれなRAS変異を有する患者や、RAS変異が確認されなかった患者においても、同様の結果が得られた。これら248人の患者において、ダラクソンラシブ群の全生存期間の中央値は13.2ヶ月であったのに対し、化学療法群では6.7ヶ月であった。6ヶ月時点の無増悪生存率は、ダラクソンラシブ群で56.0%、化学療法群で32.9%であった。

すべての薬剤と同様に、潜在的な副作用がある

本研究によると、ダラクソンラシブを投与された全患者および化学療法を受けた患者の97.7%に、治療に関連する副作用が認められた。ダラクソンラシブ投与群において、用量減量につながった最も一般的な副作用は、発疹、口腔内の腫れ、および口内炎であった。標準的な化学療法を受けた群では、免疫機能の低下、血小板数の減少、疲労、下痢、末梢神経障害などの副作用が、用量減量の最も一般的な理由であった。

しかし、忍容性の点では、ダラクソンラシブが標準的な化学療法を上回った。投与量減量につながる副作用はダラクソンラシブ群でははるかに少なく、患者の36.1%に発生したのに対し、化学療法群では57.5%であった。最も重篤な副作用は、ダラクソンラシブ投与群の10.8%に発生したのに対し、化学療法群では18.7%であった。

生活の質(QOL)は患者にとって重要な課題であり、ダラクソンラシブは化学療法に比べて明らかな優位性を示しました。ダラクソンラシブを投与された患者では、痛みが著しく増悪するまでの期間の中央値は9.2ヶ月でしたが、化学療法群では3.8ヶ月でした。また、全体として良好な生活の質が維持された期間は、ダラクソンラシブ群で5.7ヶ月、化学療法群で2.6ヶ月と、ダラクソンラシブ群の方が2倍長くなりました。

今すぐダラクソンラシブを入手する

「Let’s Win」では、ダラクソンラシブについて幅広く取り上げており、FDAの「拡大アクセスプログラム」(米国のコンパショネートユース:日本の拡大治験)を通じて、無料でこの薬剤を利用できる可能性について、医師とどのように連携すべきかといった重要な情報も提供しています。ダラクソンラシブは依然として実験段階とみなされていますが、FDAの承認を得るための多大な努力が進められています。その間、拡大アクセスプログラムのルートを利用することで、重篤または生命を脅かす状態にある患者は、臨床試験以外でも治験薬にアクセスすることが可能になります。この薬剤はすでに治療提供機関へ送付されています。

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海外ニュース:KRASの謎を解き明かす

海外ニュース:KRASの謎を解き明かす

2026年6月10日 

 

かつては「治療が不可能な」とされていたKRASに関する研究が爆発的に進展し、科学者たちはこの発がん遺伝子の特定の変異体を標的とする薬剤の開発と試験を進めている。

つい最近まで、臨床試験以外で患者が利用できるKRAS阻害剤は存在しなかった。しかし2026年5月、FDAがレボリューション・メディシンス社の治験中の汎RAS阻害剤であるダラクソンラシブ(RMC-6236)の拡大アクセス(Expanded Access)を承認したことで、状況は一変した。このプログラムにより、既治療の転移性膵臓がん患者は、規制当局による審査が続く間も、この有望な経口投与薬を利用できるようになった。膵臓がんの治療に携わる医師兼研究者であるデスピナ・シオラス医学博士(M.D., Ph.D.)にとって、このニュースは患者にとって状況を一変させる可能性を秘めたものでした。「膵臓がんは非常に複雑な疾患であり、画一的な治療法が通用することは決してありません」と彼女は言います。「しかし、KRAS阻害は患者にとって非常に大きな成果となる可能性があります。とはいえ、これはあくまで始まりに過ぎないことに留意する必要があります。私たちには、まだ学ぶべきことが山ほどあります。」

シオラス氏は、ウェイル・コーネル・メディシンの腫瘍内科医であり、ウェイル・コーネル医科大学(ニューヨーク市)の医学助教授を務めている。彼女は、消化器がんの研究に焦点を当てた自身の研究室を率いており、膵臓がんにおいて最も一般的な遺伝子変異であるKRASの隠れた弱点を解明しようとしている。

KRASの年

実際、開発中のKRAS阻害剤が増える中、この発がん遺伝子の生物学的特性についてさらに解明し、臨床試験においてより有益となる可能性のある新たなアプローチを「迅速に転換」できるようにすることが不可欠だと、シオラス氏は付け加えます。

「今年はKRAS阻害剤の年です」と彼女は続けます。「免疫療法や他の阻害剤との併用など、さまざまな組み合わせを試すための多大な努力が払われることになるでしょう。あるいは、手術前や手術後に阻害剤を投与することを検討する必要があるかもしれません。シナリオは数多くあります。しかし、これらすべてが患者さんにとって素晴らしいニュースです。」

臨床試験はどのように探せばよいですか?

彼女の研究室で行われている研究の多くは、臨床データを観察し、そのデータを実験室に持ち帰って研究を構築することに焦点を当てています。研究が完了すると、実験から得られた情報は再び臨床現場へと還元されます。研究課題の一つとして、膵臓悪性腫瘍が、線維が密に絡み合い、免疫系を抑制する「敵対的な環境」をどのように作り出すかに焦点を当てている。その結果、化学療法や免疫療法ががん細胞に届かず、標準治療がしばしば無力化されてしまうのだ。

「私たちは、さまざまなRAS変異が患者の(薬剤に対する)反応や(臨床医の)治療決定にどのような影響を与えるのかを解明しようと、懸命に取り組んでいます」とシオラス氏は説明する。「しかし同時に、これらの変異が細胞の生物学的特性にどのような影響を与えるかについても調査しています。」

重要な研究

シオラス氏とウェイル・コーネル大学の同僚らが参画した多施設共同研究により、KRAS遺伝子に見られる一般的な変異は生物学的活性が弱く、膵臓がんにおける遠隔転移を減少させる可能性があることが示された。2024年9月に学術誌Cancer Cellに掲載されたこの研究は、最も一般的なKRAS G12R、KRAS G12D、KRAS G12VなどのKRAS変異が、医師に予後に関する重要な情報を提供するとともに、より個別化された適切な治療につながる可能性を示している。

早期および進行期の膵臓がんについて、予後と生物学的特性の両面からより深く理解するため、研究チームは1,360人の患者のデータを用いた。高度な遺伝子検査手法を用いて分析した結果、研究対象患者の35%に認められた最も一般的な変異であるKRAS G12Dが、侵襲性の高いがんおよび最悪の予後と関連していることが判明した。また、この変異は、腫瘍切除手術後に生じる遠隔再発や転移性疾患の発生率の上昇とも関連していた。

患者の約30%に認められたKRAS G12Vは、全生存期間の延長と関連しており、患者の15%に認められたKRAS G12Rも同様であった。しかし、KRAS G12Rは、膵臓切除術が行われた部位およびその周辺での再発率の上昇とも関連していた。

研究チームは、膵臓がん患者全員に対して分子検査を推奨するよう、臨床ガイドラインの改訂を提案した。現在のガイドラインでは、進行期、局所進行性、または転移性膵臓がんの患者に対してのみ分子検査が推奨されており、早期段階の患者には推奨されていない。

「現在、これらの情報をすべて把握しており、研究も進行中であるため、近いうちにさらなるデータを発表できると期待しています」とシオラス氏は説明する。

彼女と彼女のチームは、Tezcat Biosciencesとも提携し、膵臓がんの新しい治療法の開発に取り組んでいます。米国国立がん研究所(NCI)の助成金に支えられたこの共同研究は、受容体非依存型の薬物送達技術を活用して、侵襲性の高いがんを標的とすることを目指しています。主な焦点は、Tezcat社の薬物送達技術を活用して、膵臓がんの研究を強化することにあります。さらに、プロジェクト・パープルは、ウェイル・コーネル・メディシンにおける膵臓がん研究を支援するため、つい先日37万5,000ドルを投資した。この2年間の「研究復興助成金」は、最近の資金不足を受けて、重要な研究を立て直し、維持することを目的としている。

シオラス氏は、膵臓がんの研究と治療の将来について希望を抱いている。「過去10年間で状況は大幅に好転しましたが、人々は根治を望んでおり、それはまだ実現していません」と彼女は語る。「しかし、一部の患者にとっては、これまでの進歩が生存期間の延長につながっています。私たちは正しい方向に向かっており、患者の治療成績を向上させるために多くの有能な人々が尽力しています。」

彼女は、恩師の一人である故グレッグ・ハノン博士から受けた重要な助言を振り返る。「要するに、彼は『研究のブレークスルーは、一人の人が「ユーリカ!」と叫ぶのではなく、千人の人々が少しずつ問題に取り組んでいるからこそ起こるのだ』と言っていました」と彼女は付け加える。

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(Source:Research-Let's Win Lustgarten Foundation)

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